ことばを食する

くーの、極めて私的な読書覚え書き。誰かにお薦めできると思った本を取り上げます

新型コロナは何をあらわにしたのか 〜「疫病2020」門田隆将

 本来なら日本はいまごろ、7月24日(金曜日)に開幕する東京五輪を目前にして、日に日に空気がたかぶっているはずでした。安倍政権にとっては、昨年の消費増税による景気低迷を一気に消し去る、盤石のロードマップでもありました。ところが2020年は日本にとって、世界にとって、あまりにも特別な年になったのです。

 「疫病2020」(門田隆将、産経新聞出版)は、新型コロナの第1波がピークを越えたいま、中国・武漢から始まったパンデミックと日本を検証したノンフィクションです。2波、3波がほぼ確実にやってくると専門家たちが予想するからこそ、備えるためにこの半年を仔細に振り返ることは欠かせません。

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 14章で構成。今年1月から緊急事態宣言が解除された5月下旬までについて、国と政治の動きを海外の動向と連動させながら、多くの苛立ち、嘆き、そしていくつかの称賛が語られています。

 「苛立ち、嘆き」とは。あまりにもひどすぎた政権中枢部と官僚たちの危機意識の希薄さ。<戦時・異常時>の防疫に対して、まったく当事者能力がなかった厚労省その他の実態。大切なのは、現在の光景ではなく近い未来を見通して必要な提言ができるブレーンと、その声に耳を傾けるトップの資質でしょう。その両方が欠けていたとしか思えません。

 戦いの前半で唯一評価できるのは、3月を目前にした一斉休校。もし3密の教室で感染が広がれば、孫が可愛い家庭内の高齢者にまで、幅広く感染が及んだかもしれません。

 実際、あのころ日本がとった対コロナ対策は、ほぼ欧米諸国から呆れられていました。習近平国賓招待と五輪開催が、足かせになっていたことも指摘されています。

 百田尚樹さんら、これまで安倍政権を評価してきた何人かの論客が早い段階で新型コロナ対策について安倍批判に転じ、内閣支持率の低下が始まりました。この時、野党は何をしていたか。ウイルスとの戦いの深刻さを認識して、対策の生ぬるさを糾弾したかといえば、残念ながら違いました。

 「桜を見る会」の追及は、平時であればそれでよかったでしょう。異常時に突入しつつある、あるいはすでに突入してしまったという認識がなかったと、門田さんは指摘します。戦時に必要なのは与野党の<政局>ではなく、一丸になって議論する<政治>であるのは言うまでもありません。

 そんな日本を救ったのが(まだ対コロナ序盤戦とはいえ)、医療関係者をはじめとした日本人の<現場力>だったと、門田さんは讃えます。思い返せば、民主党政権だった2011年の東日本大震災時にも、発揮されたのは人びとの現場力でした。

 本では中国という国家の本質や、台湾のコロナ封じ込めなど、他にも様々な問題提起がされています。

 まだ渦中にあるテーマについて、仕事をいったんまとめて世に出すことは冒険でもあります。しかし必要な冒険であり、仕事だと思います。新型コロナについては、たくさんのライター、ジャーナリストたちが取材を積み重ねているはずです。

 今後は政治だけではなく、例えば医療現場に的を絞ったノンフィクションなども出てくるでしょう。未来のためには欠かせない仕事であり、とても期待しています。

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