ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

大きな試練と小さな幸せ 新型コロナ

 土曜日は本来なら大型書店に出かけ、本を物色してから、店内にあるタリーズコーヒーでのんびりなのですが、新型コロナ蔓延とともにそんな生活習慣を失ってしまいました。ただ、できる範囲での<巣ごもり>を心がけても100パーセントの<引きこもり>は不可能です。

 先日、仕事上の必要が生じてかつて所属していた新聞社に足を運びました。過去記事を検索するためです。調べたごく一部を紹介します。

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 2020年の今からちょうど100年前、大正8年(1920年)1月14日に発行された富山新報の記事です。富山新報は富山県で発行されていた日刊紙で、現在の北日本新聞。

 社会面に「流感の死亡者続出」の見出しに続いて、「元日から男女七十二名」「一日平均七人の多きに達す」とあります。「流感」の感染拡大で毎日死者が続出し、医療崩壊の状態にありました。「火葬場は元日以来、目の回るような多忙さ」と伝えている。

 科学はまだウイルスの存在を知りませんでした。しかし現代の新型コロナに対しても、人類は特効薬を持っていないのです。100年前の記事も「口覆(マスク)を必ず使用せよ」と呼びかけています。

 その40日前の大正8年12月5日付社会面には「流行感冒の猛威」の見出しで、病院に患者が押しかけ、病室を増設するという記事がトップ扱いで出ていますから、その時すでに医療崩壊寸前だったのでしょう。

 1月14日以降も死者は増え続け、学校閉鎖はようやく1月24日付の記事に見えますが、明らかに遅きに失しています。

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 1918年から1920年にかけて、スペイン風邪(実態は鳥インフル)のパンデミックが世界中を襲いました。数千万人が亡くなり、猛威は日本にも上陸して40数万人の死者を出しました。社会はそのただ中にあったのです。

 当時、新聞はまだ「全国紙」がありません。各県でそれぞれの新聞が発行されていて、唯一の地域マスメディアでした。ですから、各地の地元紙が同じような実態を伝えたはずです。一つの県でこうなのですから、日本全体の惨状を想像すると、寒気を覚えます。

 1世紀前と言えばずいぶん昔のように感じますが、実はそうでもありません。たまたまわたしはこのところずっと、103歳のおばあちゃんの自伝のお手伝いをしています。おばあちゃんは当時3歳。スペイン風邪を体験した人は(記憶にあるかどうかは別として)現在もたくさん健在なのです。

 有史以来、人は何度もウイルスとの闘いを経て生き延びてきました。今また何度めかの、あるいは何十度めかの試練のさなかにあるのでしょう。

 そして自然の摂理に即し、世界はウイルスも含めて確実に動き続けています。景色は桜のころを過ぎ、木々がそろそろ萌黄色に染まります。季節は見えるだけではなく、耳にも届きます。わたしが住む田舎では小鳥たちの囀りがずいぶんにぎやかになりました。

 大きな試練のときとは、身の周りにある小さな<幸せ>の大きさに気づくときなのかもしれません。

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