慶応4年(=明治元年、1868)3月14日、京から攻め上がってきた官軍の大将・西郷隆盛と、幕府を代表する勝海舟が会談し、江戸城を明け渡すことで合意します。大都市江戸が戦火に焼かれる悲劇を避けた無血開城として、NHK大河ドラマなどでもハイライトになる歴史シーンです。
その7日後、中外新聞が絵入りの大見出しで2人の会談を報じます。
「江戸城討入も平和裡に終幕 これ西郷と勝が腹藝の大芝居」
おお、なんという読みの深さ!。2巨頭による腹芸の大芝居か...w。絵では二人とも座布団も敷いていないけれど戦時だからでしょうか?、座布団なしは事実か否か??
で、次の記事は「ドル相場は下落傾向」。1ドルが、銀43匁5分から6分5厘だとか。え、そのご時世にドル相場?。わたしの想像は一気に、当時の通商事情へと連れ去られ....
さらに日を追えば「善戦の彰義隊遂に敗亡す」など、教科書に出てくることや出てこないことが、ざくざく収録されています。
感心するのは、歴史の激動期において書き手の視点が新政府側、幕府側どちらにもおもねっていないこと。むしろ今以上に報道の自由と自立精神が感じられるから、業界の端くれで生きてきたものとしては、なかなか驚きだったり。
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わたしは古本コレクターではありません。しかし、部屋で本に囲まれていると心落ち着くのは確かで、人から見れば立派なマニアなのかもしれません。むしろ知る人が少ない本ほど、持っていることに「むふふ...」という喜びが込み上げてくるので、あれ、これはやはりわたし、マニアックな人なんだろうか?
そんな1冊...ではなく、シリーズ本に「新聞集成 明治編年史」全15巻(本邦書籍、昭和57年)があります。もともと昭和9(1934)年に刊行されたものを、復刻した本です。
<新聞>は、日本では幕末から発行され始め、明治初期以降各地で創刊されました。ちなみに今で言う全国紙は、当時ありません。東京、大阪と同じ紙面が全国で配達されるのは、通信技術が発達した昭和30年代以降になります。
「新聞集成 明治編年史」は、明治期の膨大な新聞記事から時代の証言、記録になるものを選んで編纂してあります。ベースは、東京帝国大学明治新聞雑誌文庫(当時)が収集した870の発行元、37万枚の紙面。その編纂の見識と労力に脱帽しかありません。また昭和57年に復刻した出版社にも、深い敬意を覚えます。
冒頭の記事は、第1巻から紹介しました。
最終の15巻目は全巻索引になっていて、例えば夏目漱石に関する記事を読みたい場合は、ここで検索します。
すると数本の記事が収録してあるのが分かり、どれどれと一つ辿って読んでみると。
文学博士の称号を返上した記事で、明治44年2月24日付東京朝日新聞に掲載。簡単な事実報告に続き、漱石が当局に出した書面をそのまま転載しています。
...小生は今日迄ただの夏目なにがしとして、世を渡つて参りました。是れから先も矢張りたたゞの夏目なにがしで暮らしたい希望を持つて居ります。従つて私は博士の學位を頂きたくないのであります....
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ネット時代はものすごく便利で、一見、あらゆることが瞬時に調べられるように思えます。しかし実際は多くが二次、三次情報です。自分の目で、元々の原典を確かめたいとき、ネットは役に立たないことが珍しくありません。
だからこのシリーズは、しばしば仕事にも役立ってくれます。もちろん拾い読みも、面白いけどね。
「今週のお題」 読書の秋