ことばを食する

くーの、極めて私的な読書覚え書き。誰かにお薦めできると思った本を取り上げます

カセットテープに残されていた過去 〜「罪の声」塩田武士

 どっしりと、骨太な面白さで一級品です。

 グリコ・森永事件。有名企業の社長を誘拐して身代金を要求し、マスコミに警察を揶揄する挑戦状を送りつけ、青酸入りのお菓子を店頭にばら撒き、しかも犯人グループは逮捕されることなく迷宮入り。40代後半以降の方には記憶に鮮明な事件ではないでしょうか。

 「罪の声」(塩田武士、講談社文庫)は、神戸新聞の元記者である塩田さんが、この事件をモデルに「こうであったかもしれない」真相を、大胆に展開した作品です。

f:id:ap14jt56:20191215232812j:plain

 元記者だけに、新聞社の内部を描いてリアル。

 そして作品を展開させる視点は二つ。

 父の遺品の中にカセットテープを見つけた、30代の商店主。録音してあったのは幼い自分の声ですが、なんとあの事件の脅迫に使われた男児の声だった!。もう一つの視点は、同年代の文化部記者(社会部ではない)で、過去の未解決事件の再取材を命じられます。

 過去の未解決事件を調べる二つの視点が同時進行し、やがて重なり、関係するさまざまな人の生き様、決して幸福でない人生が鮮やかに浮かび上がってきます。

 犯人が狙ったのは、実は身代金ではなく別のルートによる金銭的利益だったという推測は斬新です。取材協力者に元読売新聞記者などが挙げてあるので、これは警察やマスコミ内部で当時かなり有力だった<読み筋>なのでしょうか。

 犯人グループの、家族のその後と未来に光を当てて書き込んだところも、小説として見事だと思いました。

 グリコ・森永事件がノンフィクションになったとしたら、読者はわかっている事実から見えない真相を想像することになります。「罪の声」はそんな読者に代わって、リアルでスリリングな<真相>を想像して提示してくれます。座布団3枚!