ことばを食する

くーの、極めて私的な読書覚え書き。誰かにお薦めできると思った本を取り上げます

磨かれる前の原石 〜「こちらあみ子」今村夏子

 「むらさきのスカートの女」を読んで、今村夏子さんという作家がこれまでどんな作品を書いてきたのか知りたくなりました。さっそく手にしたのが、デビュー作の「こちらあみ子」(筑摩書房、2011年初版、三島由紀夫賞&太宰治賞受賞作)です。

 もし「むらさきのスカートの女」を読まずに、これだけを読んだとしたら、わたしはブログで取り上げなかったかもしれません。よく書けているけれど「習作」段階だと思いました。ただ、誰にも似ていない特異な視点と、磨かれる前の原石のような手応えが確かにあって、やはり無視できないと感じたのです。

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 ちょっと「ありえない」女の子・あみ子の視点で、小説は作られています。あみ子なりに感じ、一生懸命に考えて行動するのですが、結果はときに近くの大切な人を深刻に傷つけることになります。しかし、あみ子は自分が原因で人を苦しめたということを自覚できません。兄や友だちからの忠告も、あみ子が理解することはありません。

 あみ子は玩具の壊れたトランシーバーを大切にしていて、これがあみ子と世界の関係を象徴しています。壊れているから、いくら呼びかけても決して繋がりません。「こちらあみ子」というタイトルは、うまい。あみ子に精神医学的な病名を当てはめるのは容易そうですが、そんな野暮はもちろん1行も出てきません。

 本の帯に、三浦しをんさんの評が使われています。

 おもしろい、だけじゃない。多様な読み方ができる、豊かで奥行きのある作品です。

 確かに、多様な深読みができる作品で、「あえて」深読みすれば面白い評もいろいろと書けるでしょう。しかし、読者に「自然に」深読みさせてしまうだけの力を、わたしは残念ながら感じませんでした。ところどころ文章がこなれていないとか、あみこの恋をもう少し効果的に突っ込めなかったのか...などど、引っかかってしまいました。もしかすると「むらさきのスカートの女」を先に読んでしまったので、よけい辛口な見方になったのかもしれません...。

 何しろデビュー作ですから、その後この「原石」を磨く過程で生まれたのが、「むらさきのスカートの女」なのでしょう。芥川賞も新人賞の一つ。今村さんのこれからにますます期待です。

                    

  

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