ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

かけがえのなさとは 物語に癒やされて 〜「ツバキ文具店」小川糸

はたして小説に「癒やし系」というジャンルがあるのかどうか分かりませんが、「ツバキ文具店」(小川糸、幻冬舎)はそんな1冊でした。いい作品には派手な道具立てやストーリー、大げさな悲劇も喜劇も必要ないということを伝えてくれる小説です。興奮した、刺…

「鬼滅の刃」が強い 〜月間ベストセラー・2019年10月期

書籍の取次大手、トーハンが2019年10月期のベストセラーを発表しました。1位と3位が「鬼滅の刃」シリーズと、今月は圧倒的な強さです。2位に食い込んだのが、伊集院静さんの「大人の流儀」シリーズ9冊目。これもシリーズ累計200万部に迫る、息の長いエッセイ…

助け合う心 長野市豊野地区にて

日本の広範囲にわたって甚大な被害をもたらした台風19号から、2週間余りが過ぎた2019年10月28日、わたしは千曲川の大規模氾濫に襲われた長野市豊野地区を訪れました。午後3時過ぎ、作業を終えて帰途につく災害ボランティアとすれ違いました。両手にゴミ袋を…

もし俵屋宗達が「最後の晩餐」を見ていたら? 〜「風神雷神」原田マハ

京都国立博物館で俵屋宗達を研究する望月彩のもとへ、アポ無しでマカオ博物館の研究員が面会を求めてきました。要請を受けてマカオを訪ねた彩は、古い教会跡から発掘された1枚の油絵と日本語の古文書の束を見せられます。 油絵に描かれているのはギリシャ神…

なぜ、という問い 〜「謝るなら、いつでもおいで 佐世保小六女児同級生殺害事件」川名壮志

一人の新聞記者のルポルタージュです。事件は2004年6月1日、長崎県佐世保市の大久保小学校で起きました。6年生の女子児童が、同級生の御手洗怜美(さとみ)ちゃんを多目的教室に呼び出し、後ろから首をカッターナイフで深く切って殺害。返り血に染まった女子…

白い舞台に 彫り込まれた人間群像 〜「壬生義士伝」浅田次郎

読みながら何度か、涙腺が緩んでしまったのです。「やっぱり、やられちまうなあ」と苦笑いし、こっそり手の甲を目尻に持っていくことになりました。誰かに見られていないか、辺りを気にしながら。本の奥付を見ると2002年だから、17年ぶりの再読になります。 …

2004年(平成16年) ベストセラー回顧

久しぶりに、ベストセラーで過去を振り返ってみます。2004年、ヨン様とセカチュー(世界の中心で愛を叫ぶ)が流行語になった年ですが、当時わたしは大きな仕事に直面して流行とは縁のない生活を送っていました。みなさんはどんな年だったでしょうか。 NHKの…