ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

現代的で古典的 心に届く恋愛悲劇 〜「マチネの終わりに」平野啓一郎

映画も公開される恋愛小説のロングセラー。野暮な批評なんて、どーでもいい雰囲気なのが「マチネの終わりに」(平野啓一郎、文春文庫)です。そもそも優れた恋愛小説ほど、読んで楽しめばいいのであって、その先は何も必要ないのかも。だから、終わり。 とい…

私的ノンフィクションのすすめ

「事実は小説より奇なり」 という、使い古された言葉があります。わたしにとって、これには二通りの解釈があります。 1つ目。小説家がどんなに派手に想像力を働かせても、現実に起きる展開には及びません。地震、原発、スーパー台風、テロなどを描いた小説…

演目が終わって 粋なアンコール 〜「祝祭と予感」恩田陸

「蜜蜂と遠雷」の主要登場人物たちのエピソードを集めた短編集が「祝祭と予感」(恩田陸、幻冬社)です。時間的には前作の舞台になった芳ケ江国際ピアノコンクールの後、あるいは前と、収録された6編はそれぞれです。 映画の公開に合わせて発売されたスピン…

さりげない 短編の魔術 〜「おめでとう」川上弘美

なぜこの本なのかなあと、自分でも思います。この人ならまず「真鶴」とか「センセイの鞄」とか。確かにそうなんだよね、なんですが。今日読んだある本について書く気が起きず、そんなときは狭いこの部屋の書架から、「口直し」(今日読んだ作家さん、ごめん…

磨かれる前の原石 〜「こちらあみ子」今村夏子

「むらさきのスカートの女」を読んで、今村夏子さんという作家がこれまでどんな作品を書いてきたのか知りたくなりました。さっそく手にしたのが、デビュー作の「こちらあみ子」(筑摩書房、2011年初版、三島由紀夫賞&太宰治賞受賞作)です。 もし「むらさき…

掲載作家一覧(50音順番・順次追加します)

掲載作家一覧 掲載作家一覧(50音順)このページはブログで取り上げた作家・本をまとめています。作品名から記事にとべます。 以下の4ジャンルに大まかに分類してあり、各ジャンルへジャンプできます。またPCなら右のメニュー「ブログ内検索」から、作家名…

「ふつう」と「あちら」の鳥獣戯画 〜「コンビニ人間」村田沙耶香

コンビニという生き生きとして、無色で、いつの間にか社会に溶け込んだ現代的な空間。そのコンビニを支える有能な1部品としてのみ、社会と正常に関わることができる36歳、未婚で処女の恵子。「コンビニ人間」(村田沙耶香、文藝春秋)を読んで、実は困ってし…