ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

こわれていく「人」というもの 〜「百花」川村元気

読後、最初に書く感想として適当ではありませんが、改めて本を眺め、カバー写真も含めて黄色をベースにした「いい装丁だな」と思いました。読む前は少しもそんなことを意識していませんでした。読み終わって初めて、静かにもの悲しい本の佇まいが際だって見…

DUOのこと、Eのこと

Eが死体が見つかったのは、2月の寒い朝だったそうです。夜、大学の後輩からかかってきた電話が、前後の様子を伝えてくれました。後輩は淡々と話しました。学生時代、彼はEの文学観と才能に傾倒していました。だからこそ感情を抑えようと、静かな口ぶりになっ…

桁外れなダイナミズム 〜「絶影 チンギス紀五」北方謙三

史上最大規模の世界帝国・モンゴル帝国の基礎を築いた、チンギス・ハンの生涯を描く北方謙三さんのライフワークが、最初の節目の第5巻まできました。といっても「絶影(ぜつえい) チンギス紀五」(集英社)で、将来のチンギス・ハンであるテムジンは、まだ…

懐かしい風 アール・ヌーヴォーの華 〜アルフォンス・ミュシャ展図録

ミュシャのポスターや絵画の魅力は、最初に出会って以来、わたしにとって不思議な「何か」であり続けています。その曲線と色彩、女性たちの佇まい。作品の前に立つと、パリでさまざまな文化が花開いたベル・エポック、叶うことなら行ってみたかったその時代…

別れの言葉は? 8つのSF短編集 〜「さよならの儀式」宮部みゆき

「さよならの儀式」(宮部みゆき、河出書房新社)は、8編で構成されたSFの短編集です。連作ではなく、完結するそれぞれの語りを、1話ずつ楽しむ1冊になっています。宮部さんには江戸時代を舞台にした「あんじゅう」のような怪奇談シリーズがありますが、「舞…

初登場2冊がワンツー・フィニッシュ 〜2019.7.30 週間ランキング

1位、2位はいきなりの初登場で、ワンツー・フィニッシュです。先週は文芸書のランクインだ目立って「この夏は小説か」と思った矢先の、やや驚きの展開でした。「大家さんと僕 これから」はベストセラーになった前作の続編。ほっこり系の感動マンガは、これが…

2005年(平成17年) ベストセラー回顧

2005年は、振り返ってみれば「小泉劇場」に代表される政治の年だったのでしょうか。郵政民営化法案の参院否決で、小泉首相がいわゆる郵政解散に打って出ました。自民分裂を恐れず、「改革」を打ち上げて反対議員の選挙区に「刺客」を立てるなど、見えやすい…