ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

新年度、また牛歩の歩みで

私の住む地でも、ようやく桜の開花宣言が出ました。と言っても、うちの庭のソメイヨシノが咲き始めるのはこれからで、赤みを帯びて膨らんだ蕾は、まだ一輪も開いていません。去年より1週間遅い。今日から、新しい年度、令和4年度が始まりました。 現役を退い…

本当は怖すぎる 大人の童話 〜「地球星人」村田沙耶香

長野の山奥にある祖父母が暮らす家へと、曲がりくねった坂道を父が運転する車は進みます。乗っているのは母と姉、そして小学校5年の<私>。お盆には毎年、その山奥の家におじさんやおばさん、従兄弟たちが集まるのです。 「地球星人」(村田沙耶香、新潮文…

浮世絵の男とゴッホ 〜「たゆたえども沈まず」原田マハ

日本人は印象派の画家たちが大好きです。モネの「睡蓮」、ルノアールが描いた少女や女性たち、ドガの踊り子、ゴッホの「ひまわり」や「星月夜」...。(厳密には、ゴッホは「ポスト印象派」とされています) もし私が美術館の学芸員・キュレーターで、上司か…

その生き様 静かに一気読み 〜「朱より赤く 高岡智照尼の生涯」窪美澄

明治の終わりから昭和にかけ、時代の耳目を集めた女性としてわたしがまず思い浮かべるのは柳原白蓮です。<大正の三美人>と称された一人で、歌人。父は伯爵という超エリートの血筋。 波乱にみちた生涯については、林真理子さんの「白蓮れんれん」(集英社文…

言葉の美味しさ 〜「小説の言葉尻をとらえてみた」飯間浩明

「これは面白い○○だなー」 読みながら何度も心の中でつぶやき、つぶやきながらもどかしかったのは、「○○」に当てはめるべき言葉が見つからないことでした。評論、随筆、エッセー?。どれもぴったりきません。小説を取り上げているけれど書評とは言えないし。…

雲隠 空白の帖に思ったこと  〜「源氏物語」瀬戸内寂聴訳その8

紫式部の「源氏物語」は全54帖。光源氏の晩年を描いた41帖の「幻」を最後に、輝くヒーローの物語は終わります。続く42帖の「匂宮(におうのみや)」は光源氏の死の8年後の出来事が描かれ、ここから残る13帖は新たな世代による展開になります。 ただし、54に…

あかりをつけましょぼんぼりに

あかりをつけましょぼんぼりに…と、今日は桃の節句。高齢者二人世帯のわが家にも、お雛様が飾ってあります。高校を卒業して大阪の大学に行き、今は2人の子の母になって東京に暮らす、娘の雛飾りです。お雛様を見ながら老人が思うのは、 光陰矢のごとし。 こ…