ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

<美味しい>小説、についての覚え書き

お盆前から池波正太郎さんの「剣客商売」(新潮文庫、全16冊)を読み始めて10日ほど。14冊目に入って、残り3冊になると、ちょっと名残惜しいような。 わずか10日ほどとはいえ、ずいぶん日も短くなり、午後6時半を過ぎると夕闇が迫ってきます。戻り梅雨のよう…

手練れ作家の、とっておきメニュー 〜「剣客商売」池波正太郎

「60半ば過ぎた男性って、どうしてあんなに時代物が好きなの?」 以前、わたしにそう問いかけたのは、とある公立図書館に勤める知人女性でした。貸し出し業務をしているので、今どんな本が人気か、仕事を通じて手にとるように分かるわけですが、時代物だけは…

「愛についてのデッサン」 〜野呂邦暢作品集 覚え書き

書店の文庫新刊コーナーを眺めていて、目に入ったのが「愛についてのデッサン 野呂邦暢作品集」(ちくま文庫)でした。 野呂邦暢(のろ・くにのぶ)という作家はずいぶん昔、たぶん大学生のころから知っていました。ただし、作品は未読だったけれど。<邦暢…

われらに罪なすものを 〜「瑠璃の雫」伊岡 瞬

辛い時、苦しい時に、明日からも人としてあることに、踏みとどまらせてくれるものとは何でしょうか。例えばそれが小説なら、どんなフィクションか。 主人公に自分を投影し(ここでまず、読者を引き込む作家の力量が問われます)、次々と降りかかってくる不幸…

ネット、プチ断食の日々

30年近くにわたる、筋金入りのMac党であるわたしは、メーンの机にはノートパソコン(MacBook Air)、サブ机にデスクトップPC(iMac)、枕元のタブレット(iPad)、そして日々持ち歩くのはiPhoneです。 改めて考えると、長い年月に渡って、画面の向こうの世界…

画鬼の子に生まれて 〜「星落ちて、なお」澤田瞳子

明治22年に没した絵師・河鍋暁斎(かわなべ・きょうさい)。<画鬼>と称され、今その作品群を見れば、時代を超越した鬼才であることに驚きます。 「星落ちて、なお」(澤田瞳子=さわだ・とうこ、文藝春秋)は、暁斎の娘・とよ=後の絵師・暁翠=の生涯を描…

白い雪と青い海

家から5キロ余り、1時間ほど歩くと海に行き当たります。東を臨むと、青い日本海の向こうに、雪を頂く北アルプス・立山連峰が広がっています。 遠望する雪の白は、夏の訪れとともに下から消えていきますが、どんな猛暑でも上には残り続けます。山脈の深い谷に…