ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

さまよう 魂の明滅 〜「日本詩人選8 和泉式部」寺田透

7月も半ばになれば、ゲンジボタルからヘイケボタルに移り替わる時期です。ゲンジボタルは大型でゆったり舞い、強い光で明滅します。わたしの住む地域なら6月中旬以降、主に里山の沢で見られます。ヘイケボタルは小型で、青白い明滅も早く、はかなげ、やはり…

今、この瞬間に ふかく、深く 〜「あなたの愛人の名前は」島本理生

旦那さん以外に抱かれたいと思ったことはないの? と訊かれた。 どきりとする書き出しで「あなたの愛人の名前は」(島本理生、集英社)は、始まります。恋と呼べるなら、恋と失恋を描いた6編の連作集。6編のうち5編が1人称で書かれ、主人公であるそれぞれの…

古書を通じた 文化史の醍醐味 〜「一古書肆(いちこしょし)の思い出」反町茂雄

古本屋さんに通う目的とは何でしょうか。新刊を安く買える。漫画、文学書を問わず、シリーズ物の揃いや全集が気軽に一括で手に入る。マニアなら、絶版書と出会える。得意なジャンルを持つ専門的な店(おもに東京・神田)で、初版本や色紙、昭和初期以前の雑…

ピアノ 素晴らしき残酷な世界 〜「蜜蜂と遠雷」恩田 陸

圧倒的な音量で、色彩豊かな響きを鳴らし、駆け抜けて行く交響曲を聴いた気分になりました。本編の楽曲が着地したあとは、アンコールをポロンと1フレーズ奏でて「蜜蜂と遠雷」(恩田陸、幻冬舎)は終わります。2017年の直木賞、本屋大賞ダブル受賞作。 ピア…

「もっとざんねんないきもの事典」がトップに 〜2019.7.9 週間ランキング

先週3位だった「もっとざんねんないきもの事典」が、一気にトップに浮上しました。これに引っ張られたのか「世界一おもしろい絶滅したいきもの図鑑」が久しぶりのランクインで6位に浮上しています。絶滅したいきもの図鑑の方は2018年7月、1年前の新刊ですか…

 幸せってなんだっけ? 〜「ゴドーを待ちながら」S・ベケット

谷川俊太郎さんの詩句に、こんなのがあります。 どんなに好きなものも 手に入ると 手に入ったというそのことで ほんの少しうんざりするな これ、分かる気がしませんか。それどころか時には、手にも入っていないのに、自分のものになると分かった瞬間から、求…

2006年(平成16年) ベストセラー回顧

「劇場型」とも言われた小泉政権が9月に終わったこの年、日本は一つの曲がり角だったのかもしれません。総人口がいよいよ減少に転じたことが明らかになり、いじめの自殺が各地で相次ぎました。ライブドア事件、村上ファンド事件も記憶に新しいところです。IT…