ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

こころ整う暮らしへ 〜「ほんとうの豊さに出合うための9週間」深尾双葉

 いつの間にか物であふれているわが家。目に入るところはもちろん、普段は視界に入らない収納スペースなど、この先いつ使うかも分からない物があれこれぎっしりです。そして家の中のどこよりも、6畳のわたしの部屋。本棚から溢れた単行本や全集が床に積んであり、勝手に「床上収納」などとうそぶいています。

 「ほんとうの豊さに出合うための9週間」(深尾双葉、KADOKAWA)は、いかに物を捨て、捨てることで心の豊さを得るかという体験談です。読み始めてすぐに引き込まれました。

 

 単なる実用書、ハウツーに終わることなく、捨てる物、残す物を通して人生をふり返り、新しい自分を獲得する心の動きに重きが置かれているからです。物を整理し、捨てることは「自分自身と向き合う心の旅のようでもありました」

 ふと、茶道が教えてくれる心のしあわせを綴った森下典子さんの 「日日是好日」(新潮文庫)を思い出しました。内容はまったく異なるにしても、筆者のこころのただずまいがページから立ち現れてくるのが似ています。

 第1週から第9週までの9章で構成され、第1週は心構え、第2週から実践に入ってまず台所、第3週はクローゼット....と、1週間に一つのテーマで進みます。例えば第6週は食材で埋もれた冷蔵庫。中を見直して整理することは、簡素でヘルシーな食習慣への変化につながります。

 

 実のところ、子ども時代が高度経済成長期と重なる、昭和生まれの男であるわたしにとって、身近でないテーマもあるのですが、各章不思議に面白く読めました。それは全編を通して、同じメッセージが語られていたからでしょう。

 いつの間にか溜め込んだ物たちに、わたしたちは生活習慣や考え方まで縛られている。縛られていることに、わたしたち自身が気づいていないのです。...と。

 

 読後、雑然として、混沌たるわが部屋を見回しました。難破船の如きであっても、個人的な歴史を積み重ねてきた結果だから落ち着くのだ...という面はあります。でも、もっとこころが<整う>空間にできるのかもしれない。捨てることで手に入る豊かさについて、考え込んでいます。