ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

少女は痛快に青春を駆ける 〜「成瀬は天下を取りにいく」宮島未奈

 「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」

 読み始めの冒頭が、この宣言です。頭の中が「?」になったわたし。

 宣言したのは中学2年の女の子で主人公の成瀬です。呼びかけられた島崎は、同じマンションに暮らす同級生の親友。わたしが思ったのは...成瀬は今どき珍しい野球少女で、夏休みに西武球場へ通い続ける決意をした、熱烈なライオンズ「推し」なんだろうか?

 ...という推測は、見事に外れました。

 彼女たちが暮らす滋賀県大津市唯一のデパート、西武大津店が8月いっぱいで閉店します。閉店を惜しんで、地元テレビ局が毎日、西武大津店から中継を行うことになり、その放送に必ず映るというのが成瀬の惜別の表現、決意なのです。

 面白いのは、宣言の意味が分かって読者はひと段落...ではなく、さらに「??」となるところです。閉店が残念なのは分かるけど、それってなんか違うような。

  成瀬はいつだって変だ。

 と、親友の島崎は断言します。

 ときに周囲から浮いても、平気なのか気づかないのか天然のマイペース。しかもとんでもなく勉強ができ、なんでも宣言してそこそこやり遂げてしまう。なんだかんだで成瀬に巻き込まれる島崎とのコンビがまた絶妙です。大津という寂れゆく地方都市への地元愛が、全編を通して漂ってくるのも心地よく微笑ましい。

 小説を呼んで久しぶりに、「痛快」という言葉を思い浮かべました。

   

 痛快な青春小説といえば、誉田哲也さんの「武士道シックスティーン」から始まる剣道4部作がわたしの中で輝いていますが、「成瀬は天下を取りにいく」はそれに迫る面白さです。

 どちらも少女を主人公にした成長物語。チャラチャラした生き方には目もくれず、もしかすると生き方が不器用かもしれず、しかし目指すものだけを追い求めて自分の道を貫きます。同調圧力が強い日本という国だからいっそう、成瀬のようなキャラクターが痛快に際立つのかもしれません。

                    

 

 

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