ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

貌のない言葉という凶器 〜「踊りつかれて」塩田武士

 SNSを中心にしたネット上の言論空間を、みなさんはどう感じているのでしょうか。たぶんSNSとの接し方は、世代によって大きく異なる。昭和の時代に人格形成が終わったわたしから見れば、SNSは便利な道具であると同時に、底知れない闇を抱えていて、しかも闇がますます深まっていく不気味さを感じます。

 数年前、テレビで放送された言動に対し、激しいバッシングを受けて自殺した22歳の女子プロレスラーがいました。たぶん彼女は、プロデューサーが割り振った役割を忠実に演じたに過ぎない。ただ、ちょっと忠実にやり過ぎたのかもしれない。だからネット上で生贄になってしまった。

 言葉は、人を殺す凶器にもなります。その怖さを意識もせず、匿名性という仮面に守られたSNSの言葉は、火が火を呼んで炎上し、ときに一人の人間を飲み込んでしまう。正当な「批判」ならまだしも、仲間ウケと、独りよがりの正義感を盾にした「罵詈雑言」の嵐。

 あのなあ、本物の正義感を持った大人は、本当の極悪人に対してさえ、そんな言葉は吐かないよ。吐けないよ。と、わたしのような昭和人間は思うけれど。

 「踊りつかれて」(塩田武士、文藝春秋)は、そうしたネット社会の闇にスポットを当てた小説です。本のカバーから、紹介文を転載します。

 

 「言葉が異次元の暴力になるこの時代。不倫を報じられ、SNSで苛烈な誹謗中傷を受けた人気お笑い芸人・天童ジョージは自ら死を選んだ。

 一方、バブル期の華やかなりし芸能界を駆け抜けた伝説の歌姫・奥田美月は写真週刊誌のデタラメに踊らされ、人前から姿を消した。

 彼らが目にした絶望、それはー。」

 

 

 ネット社会の闇の構造を、小説としての展開の面白さに巧みに落とし込んだ作品です。元新聞記者の塩田さんにとっては、ぜひ立ち向かいたいテーマだったのだろうと想像しました。

 貌のない言葉という凶器。現代社会の闇は消えるどころか、ますます増大するばかり。それでも作品の終盤、過去と現在がつながって、生きている「今」が感動的な存在感で立ち現れます。

 どんな時代になろうと、大切なものはリアルの世界にしかない。当たり前のことに、改めて思い至らせてくれる作品でした。

              

 

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