ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

終着駅の春

 家を出て車で2時間半、豪雪地でもある福井県大野市(越前大野)は、盆地にある古い城下町です。北陸自動車道福井北ICから、岐阜方向へ中部縦貫自動車道に折れます。30分ほど山間部を貫く道を走ると目の前が開けて、大野市に着きます。

 人口3万人弱の静かな市。市街地を囲む山頂に越前大野城があって、気候次第で「雲上の城」になります。一部のファンには知られていますが、外国人観光客が訪れることも少なく、市街地には寺院群や、お洒落なお店と昭和そのままのお店が同居しています。

               (越前大野城公式HPから)

 名物の一つが、地元の和菓子店・伊藤順和堂の「いもきんつば」。餡の代わりにサツマイモを使ったきんつばで、昼過ぎには売り切れも珍しくないようです。しかも5月から夏の間は製造しない季節限定の一品です。

 これ、うまい。サツマイモの素朴な甘さが生きていて、でも和菓子だからといって甘すぎない。東京には舟和の「いもようかん」があるけれど、わたし的には断然「いもきんつば」に軍配。

 ここ1年余りの間に、大野市を訪ねるのは3度目でした。往復にほぼ1日。越前大野城から見下ろす街並みを50号の油彩のモチーフにしていて、実景を確認したくなるからです。絵の完成がいつになるか見通せないけれど、あと2年のうちには仕上げたいな。

 今回は高速道路途中のサービスエリアから、しっかり電話で「いもきんつば」も予約しておきました。城に登って市街地を眺め、要所は望遠レンズで撮影。目的を全て達したのですが、ちょっとした「おまけ」がありました。

 そのまま帰るのはつまらない。大野市からもっと先まで行ってみよう、と思ったのです。行ったことないし。

 中部縦貫自動車道はやがて長野県松本市とつながる予定でも、現在は岐阜県境に近い福井の山奥(失礼^^;)九頭竜ICが終点。そこへと、さらに20分ほど車を走らせました。

 九頭竜ICは、旧福井県和泉村(現在は大野市の一部)にあります。自動車道脇に、まだ残雪が見えました。そして、ここはJRの枝線、九頭竜線で福井市から山間部に向かった終着、九頭竜湖駅があります。

 終着駅なので、駅舎を過ぎた鉄のレールには車止め。日本の人口、特に山間部が減り続ける中で、この枝線はいつまで存続できるのだろう。レールの終わりから来し方を望むと、つましく、少し寂しい景色。清楚な光が水脈になって、心に沁みてきました。

 5月も近いというのに、遅い春があった。