純粋、切ない、優しい、強い。弱い、かたくな、そして残酷。
どれも、「冷静と情熱のあいだ」(江國香織、角川文庫)の主人公<アオイ>について考えたとき、思い浮かんだ言葉です。そして全部、だれしもが持つ人の本性かもしれません。
単行本帯のキャッチコピーによれば「今世紀最後の、最高の恋愛小説」。1999年刊行なので25年前、20世紀の終わりですね。読後、そう思えるかどうかは読者次第。
<アオイ>は、イタリアのミラノに暮らし、ナイーブなアメリカ人と付き合っています。舞台はおしゃれだけれど、小説の雰囲気は冒頭からさみしげで、イタリアというより北欧の静かな短調の調べ。当時、すでに普及し始めていたメールは出てこなくて、手紙の世界です。
読み進みにつれ、さみしげな理由が分かってくる。日本での<アオイ>の激しい恋愛と別れ。彼女はその傷から立ち直れていません。アメリカ人青年と生活を共にして、懸命に傷を忘れようとしているけれど。でも、忘れようと努力するのは、絶対に忘れられないから、ですよね。
そんな<アオイ>の姿は、純粋で切ない。一方で、一途に<アオイ>を愛するアメリカ人青年にとっては、残酷でもあります。
<アオイ>はすべてを投げ出し愛して破綻した相手と、かつてある約束をしていました。その約束の日時と場所が、エンディングです。具体的には書きませんが、<アオイ>が再び前を向いて歩き始めるために必要な、奇跡と、哀しさ。
そして<アオイ>が過去を忘れられなかったように、アメリカ人青年は別れた<アオイ>との過去を忘れられないだろうな。きっと、そんな目に見えない連鎖がいくつも、男と女の間にはある。
この作品、同タイトルで辻仁成さんも書いています。調べてみると、文芸誌で同時連載されていたんですね。辻版は<アオイ>と激しい恋愛をした男の視点で。そちらの方、わたしは未読です。