ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

「レダと白鳥」〜レオナルド・ダ・ヴィンチの失われた傑作

 空き部屋になった2階の子供部屋に、春から画材を運び上げ、画集など絵画関連の書籍もすべて移してアトリエにしました。いま、とてもお気に入りの空間です。

 絵筆を持つと集中力が必要で、30分前後描くと限界に達するので、中入りの休憩を3、40分。その繰り返しになります。で、休憩時間には軽い読書や画集を眺めてリラックスします。

 きょうたまたま、「世界素描体系」(講談社、全6巻)のイタリア編をめくっていて、15世紀後半に活躍した画家・彫刻家、ヴェロッキオのデッサンに目が留まりました。なんだか見覚えがあって。ルネッサンス期イタリアのヘアースタイリスト?が、腕を振るったのであろう女性の頭部像です。

 

 ところで。

 天才、レオナルド・ダ・ヴィンチは14歳のころ、このヴェロッキオの工房に入って腕を磨きました。ヴェロッキオはレオナルドにとって、最初で最後の師です。その才能に驚いたヴェロッキオは、依頼された壁画の一部をレオナルド少年に任せ、やがて自分は彫刻に専念するようになりました。

 ヴェロッキオの死後10数年、時代は16世紀に入り、レオナルドはだれもが知る芸術家になっていました。そのころ描かれたのが「レダと白鳥」でした。

 残念ながら散逸作品。現存していれば、「モナ・リザ」などと並び、代表作に数えられたであろうこの作品、17世紀末以降所在不明なのです。かろうじてレオナルドの試作素描や、作品が現存した時代の模写が残されています。

 レオナルド自身の、リアルタイムの試作素描はこれです。わたしは何度も見た記憶のある1点。

 

 細部は異なっても、ヴェロッキオの頭部素描にそっくりではないですか。それでどこかで見た気がしたのか。そして師に絵の筆を折らせたレオナルドであっても、師の絵はその中に生きていたのか...。

 レオナルドやルネッサンス絵画の研究者にとって、目新しくもない事実かもしれませんが、わたしにとっては新鮮な発見でした。

 失われた「レダと白鳥」は、レオナルドを敬愛したラファエロが素描で模写しています。しかし、さすがはレオナルドに並ぶルネッサンスの天才。模写でありながら目線、卵形の顔の輪郭など、やはりラファエロそのものの線描です。

 ラファエロがレオナルドからなにを学び、なにを拒絶したか、とても興味深い。

   wikiから

 オリジナルを元にした、後世の画家による模写は複数あります。これもwikiから1点、拝借します。

 

 ちなみに、「レダと白鳥」のモチーフはギリシャ神話。王妃レダを、白鳥に化けたゼウスが誘惑する物語です。

 

 失われたオリジナルが発見されたら、大ニュースになるだろうなあ。絶対に見に行きたい。でもまあ、無理か...