ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

風景を描き始めて

 このところ、本を読むより絵を描く時間が多いのです。わたしにとって「描く」とは、自分の感性とか、絵画的な効果を考えるとか、そうした類のあらゆる人為的なフィルターを排除すること。

 愚直に写実です。描く対象(モチーフ)を見続けて、それが現実に存在することの当たり前、その凄さに、すべてを委ねた絵が理想。どんな細部であれ、形態や色彩に素人の芸術家気取りの改変などあり得ない。

 描くに当たって自己の感性を否定すると、これがなんとも清々しい。同時に、自分の技量のなさに常にがっかりして、モチーフに申し訳ない。モチーフを生かすために、わずかでもスキルを高めたいと思います。

 もちろん、素人であっても具象、抽象、どんな絵を目指すかは人それぞれで、描くことの多様な豊かさを否定するつもりは少しもありません。あくまで、高齢者が手習で絵を始めた、臍曲がりなわたしの場合です。

 3月、長く空き部屋(半物置)になっていた子供部屋の一角を絵の作業場にしました。やや大きい作品に着手したため、これまでのように本で埋まった自室の空間のやりくりではとても描けないので。

 

 新たな挑戦を始めたのは風景。これまで静物や人物は描いたけれど、風景は初めてです。

 昨年秋、福井県大野市を訪れました。「雲上の城」として知られる越前大野城に登る道から、木々の向こうに市街地が見渡せた。足を止めて思わず見とれ、スマホで撮影しました。こんな景色です。

 

 古いiphon8ながら、カメラ機能はさすが。このまま、P50号に縦の油彩で描くことにしました。城より、こちらにそそられる。

 キャンバスの下地塗りと、紙やすりでせっせと表面を研磨して2週間。極細の筆がスムースに使えるよう、前処理が面倒なのです。ふう。そこからモノクロの下絵完成に3週間。

 数日前から、やっと彩色に入ることができました。風景の定石として、描くのは遠景から近景へー。わたしの下塗り(アンダーペインティング)は、ごくごく薄く色を入れるので、いまのところ水彩みたい?

 (部分拡大)

 夏の終わりまでに、一番手前の笹の葉までアンダーペインティングを終えて、秋には2層目、3層目の重ね描きに入りたいなあ。油彩は絵の具が重なることで存在感が出てくるので、楽しみです。

 描き始めた風景に比べ、サイズがずいぶん小さい百舌鳥の巣(10号)を描くのに2年以上かかりました。

 すると、この作品が完成するのは何年後だ?。そして同じ季節、同じ時間帯、似たような天気の日に、大野市を再訪したい。

 まあ、あまり先を考えるのはやめよう。