ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

正月に、飲んで包丁を研ぐ

 面白い小説は、例外なく脇役が魅力的です。悪者であれ善人であれ、主役を生かすのは脇役ですから、彼らがくっきり描かれているほど、その対比で主役が際立ちます。

 題名を忘れてしまったのですが、北方謙三さんの時代小説にちょい役で出てくる研師がいます。

 偏屈な老人で、気が向かない仕事は一切受けない貧乏暮らし。しかし、研師としての感性がざわめく刀に出会うと、人が変わります。

 三日三晩、食い物は塩握りと水だけで刀を研ぎ続けます。何人もの血を吸った刃の曇りを、ひたすら研ぐことで清めようとするのです。これ以上人を斬って曇るな、と。

 ところが、刃先を清め、鋭利な輝きを与えるほど、そこに新しい血を求める妖しい気配が宿ってしまう。...

 

 あけましておめでとうございます。

 正月2日、夕方から台所で立ち飲みしながら、包丁を研ぎました。酔っ払っても集中力を求められる微妙な作業ですが、集中力の方が勝っていて、しかしちびちび飲んでいるので、研ぎ終わったとたんにどっと酔いが回ります。

 年に何回か包丁2本を研ぎます。いつも思い出すのは、北方さんの小説に出てきた偏屈な研師。刀とはモノが違いすぎるにしても、包丁を研ぎ続けるほんの1時間ほど、わたしはあの老人になります。これも、一風変わった小説の楽しみ方です。なんとも

 おめでたい自分^^;。

 さて、年が改まって、「切れる」ではなく、「吸い込まれる」切れ味になったかどうか。

 本年もよろしくお願いいたします。