思い返せばキャンバスの下塗りから始まり、この静物画と旅をしていたような5カ月でした。
やや感傷的な書き出しになったのは、描いている途中に老犬・くーが逝ってしまったからです。描き始めてから今日まで、まったく絵筆を持たなかった日は10日もないでしょう。特に、生活の相棒だったくーがいなくなってからは、短時間であっても絵筆を持つ間は、無心になれる貴重な時間でした。
夏8月、F6の小さなキャンバスに、何度も下塗りして紙やすりをかけ、表面を滑らかにしました。初心者なので、ネットで調べながら下地を仕上げました。その間、よぼよぼの老犬・くーは、暑さを避けて日陰で眠りこけていたものです。
静物画にしようと決め、9月に構図を試行錯誤して、いちじくやパン、ワイングラスを収集。レースのテーブルセンターは家具屋さんを回ってもしっくりくるものがなく、ネットで見つけて注文しました。
ます鉛筆デッサンからスタートし、部分の試作(エスキース)を何枚か行い、いよいよ10月1日から意を決してキャンバスに向かいました。
10月7日、鉛筆の下絵に彩色開始
そもそも、なぜ突然絵を描き始めたのか、前にブログで少し書いたことがあります。加えて、旧友の言葉に背中を押されもしました。彼が言ったのは
「お互いこの歳になったら、これからは、若いころできなかったことに決着をつけておく時期ではないか」
言葉通りではありませんが、そんな意味の発言でした。心残りがあるなら、死ぬ前に清算しておくべきだと。強いて、わたしにそうしたものがあるとすれば、一つは絵を描くことだと思いました。
高校から油絵を始めて20代後半まで、わずか数枚ですが油彩を描き、田舎の公募展で入賞したこともありました。でも自分の中核を占めるのは、世の中のリアルな出来事を文章で伝える仕事であり、家庭を維持することでした。画材は、物置で長い眠りにつきました。
現役を退いた今、あー、暇な時間にそっちを楽しんでみるのもいいか、あくまで「楽しむことを大前提に」と、思ったのです。
まあ、実際に挑戦してみれば、<表現する>ということは、何であれ楽しいことばかりではすまないのですが。予想外だったのが、長く連れ添ってきた老犬の死。
もし彼が元気だったなら、もう少し明るい絵になった気がします。
F6の大きさはこの程度です
この文の下にある画像は部分の拡大。あるものをできるだけ、あるがまま画布に定着させたいという意思しかありません。くーもまた、そこにいることが普通だったし。ただそこにあることだけですでに凄い...と思いながら、描いていました。
もう少し、細かい筆を加えるつもりですが、たぶん写真では判別が難しい程度でしょう。月内には(恥ずかしながら)署名など入れようかと。あ、絵に着せる衣装・タイトルも決めてあげないと。
この絵との個人的な旅も、ようやく終着駅が見えてきました。
本当はもっとこう描きたかった、実はこうなんだ、という部分は多々ありますが、そこは画布の上の各モチーフに謝るしかない。ごめん。何せ経験の浅いジジイだから、君たちにあまりいい思いをさせてあげられなかったかも。
もうしばらくは、読書と並行して絵も続けてみようと考えています。さて、次は何に向き合い、どんな旅になるのだろう。