ただ相手を斬ることしか、今は考えていません。勝ち負け、でもなく、ただ斬るか、斬られるか....それが剣の道だと思っています。
これ、16歳の女子高生が剣道部顧問の先生に吐くセリフです。彼女がボロボロになるまで読み続けているのが新免武蔵(別名というかポピュラーなほうの名前はあの・宮本武蔵)の「五輪書」。オリンピックの書ではなく、兵法の奥義を記した古典。ちなみに彼女は全国中学生剣道大会2位の実績あり(本人は極めて不本意)で、父は警察官です。名前は香織。
さて、一方....
「ドォォォーッ」
あんまりやったことなかったけど、入りそうだったから、逆ドウ打っちゃった。
「ドウ」
うっそ。いや、うそじゃない。こっちの赤、三本上がってる。
補欠から急遽、先鋒に引っ張り出され、格上と対戦したら...。あれ?、1本取っちゃうし。日舞をやってたけれど、中学に日舞の部がなかったので剣道部に入り、実績はまぐれの市秋季大会ベスト8。名前は早苗。
「武士道シックスティーン」(誉田哲也、文春文庫)は、高校で出会った対照的な二人を軸にした剣道部のスポ根小説です。鬱陶しい夏に、喉越し爽やか炭酸水の味わいと言うか。猛暑も、新型コロナも、とりあえずは横に置いといて、一息つきたいときに見事につかせてくれます。
文章のノリ、あるいはテンポが快適。こちらはつい乗せられて、現代では絶滅危惧種どころか生きる化石のような剣道女子高生の存在を、違和感なく受け入れてしまう。その技、試合開始早々から、書き手の側の見事な<1本>です。
解説によれば「タイトルからして、ベタベタな青春小説だ。これがもうベタベタにおもしろい」ということになりますが、作品自体はカラッとしていて、ベタベタした湿気感はゼロ。まあ誉田さん、もともと警察小説やホラーもので、表情も変えずに何人も殺してしまう書き手ですから。
この作品は軸になる二人の試合場での出会いから別れまでの1年を描き、周辺の登場人物や思いがけないストーリー展開など、隅々まで誉田流<青春小説>に徹して作り上げてあります。
読む側は、難しく構える必要まったくなし。ビールでも飲みながら無の境地?で、この本との立会いに臨みましょう。
武士道シリーズ1作目がこの「シックスティーン」で、全4作。わたしは早速「セブンティーン」をネットで注文しました^^。新型コロナに加えて猛暑なので、出歩きたくない。街の本屋さんごめんなさい。