ことばを食する

くーの、極めて私的な読書覚え書き。誰かにお薦めできると思った本を取り上げます

本能寺 張り巡らされた謀殺計画 〜「信長の革命と光秀の正義」安部龍太郎

 2020年のNHK大河は明智光秀が主人公ということで、書店にも光秀関連本を集めたコーナーができています。信長が光秀に討たれた本能寺の変は、日本の歴史を大きく変えた事件でした。なぜ光秀は主君・信長を急襲したのか。現代に至るまでいろいろ言われてきた大きな謎です。

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 「信長の革命と光秀の正義」(安部龍太郎、幻冬舎新書)は、作家として様々に信長を描いてきた安部さんが、時代背景や周辺史料を読み込んで謀反の真相に迫った論考。小説家の文章は、いかに分かりやすく伝えるかという読者目線が貫かれて、全体構成への目配りもしっかりしているので、歴史学者の論考よりよほど面白いですね。

 第一章「光秀単独犯行はありえない」から、いきなり謎の本質に切り込んで行きます。危機感を持った朝廷との対立、足利幕府の存在。こうした構図の中で暗躍した一人の天才肌の公家に光を当て、本能寺の変が起きた必然が説かれます。

 第二章以降は、光秀、信長それぞれの人物像を検証し、さらにヨーロッパの支配が世界に広がる大航海時代という背景の中で、日本の戦国時代を読み解いていく視点は新鮮で説得力があります。

 ポルトガル人による鉄砲伝来が1543年。その後わずか30〜40年で、鉄砲は戦国武将たちが競って求める、戦に欠かせない新兵器になります。刀鍛冶の技術があった日本では鉄砲の国産化が急速に進んだとされていますが、一方でポルトガルなども大量の鉄砲や鉛(弾)を日本に売って利益をあげた、現代風に言えば「死の商人」そのものということになります。

 安部さんによれば鉄砲製造に欠かせない軟鉄や真鍮などの材料も輸入に頼っていて、南蛮貿易とは西洋文化到来の裏面にある武器輸入だったというわけです。そういえばキリスト教を布教したイエズス会は、植民地支配に向けての情報収集部隊という裏の顔もありました。

 激動する世界の中で、日本もまた激動の戦国時代だったのですね。

 信長の謀殺計画は秀吉も事前に知っていた、秀吉の朝鮮出兵はスペインとの外交・軍事関係が絡んでいたーなど、安部さんの論には「わたし的にはちょっと判断保留〜」というものもありますが、仮説としてはとても面白い。歴史に興味がある方なら刺激的な1冊だと思います。

 ところで、NHK大河はこれから本能寺に至る背景をどんな展開にし、光秀の謀反の動機付けをしていくのでしょうか。あまりテレビを見ないのですが、その部分だけは楽しみにしています。

                  

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