ことばを食する

くーの、極めて私的な読書覚え書き。誰かにお薦めできると思った本を取り上げます

人はむかし 交尾して子を産んだ 〜「消滅世界」村田沙耶香

 才能ある作家が、束縛なく想像力を解き放った作品だと思いました。「消滅世界」(村田沙耶香、河出書房新社)は、作家仲間から「クレイジー沙耶香」と呼ばれる村田さんの世界そのもの。誰にも似ていないし、真似もできません。ページをめくれば、読者を引き込む力も備えています。ただし素朴に作品を楽しめるかというと、なかなか一筋縄ではいかないかな。

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 舞台は未来。全ての子供は人工授精で生まれ、男と女が子供をつくろうと「交尾」することはありません。交尾は昔の古い習慣であり、夫が妻に欲情したりすれば、とんでもない暴挙であり、結婚という家族関係を解消する立派な理由になります。

 もちろん、人間が恋や性愛への欲望を消し去ることはできません。その生物としての本能の一部をどんなふうに解消し、クリーンにするかは作品でお読みください。

 本の帯に「日本の未来を予言する衝撃作」と、赤に白抜き文字で強調してありますが、これは微妙にピントがずれているかな。まあ草食系とかセックスレス、少子化が話題になり、同性婚やジェンダーなど多様な性のあり方が認められつつある社会を背景にしたキャッチコピーなのでしょうけど。この本のような日本になったら、わたしはたまりませんw。

 正常ほど不気味な発狂はない。だって、狂っているのに、こんなにも正しいのだから。

 作品中にある一節ですが、描かれた世界は狂っています。狂った世界に違和感なく暮らす人びとに、狂っている自覚はありません。主人公は「男と女が愛し合い、生身の交尾で生まれた」「その母に育てられた」という特殊事情があるから、世界に対して狂っているという視点を持つことができます。

 その主人公がどう変わっていくか、いかざるを得ないかは、作品の影のストーリーになります。

 性愛とは、夫婦とは、親子とは.....などと、いちいち作品は問いかけていません。そんなものは大昔の概念として博物館で埃をかぶっていて、ただ未来の社会と人びとが描かれるだけです。しかしその世界を読み進むと、普通の現代人であるわたしの中では、もっと基本的かつ古典的な問いかけが育っていきます。そもそも「人とは何なのか」。

 「消滅世界」は、芥川賞受賞作「コンビニ人間」の前年に発表された作品です。「コンビニ人間」はややお行儀よく社会にマッチさせた秀作で、ぶっ飛び感はこちらの方が上です。

                        

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