ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

2021-09-01から1ヶ月間の記事一覧

国を支える「母」への道のり 〜「月と日の后」冲方丁

この世をばわが世とぞ思う望月の....と詠んで、権力をほしいままにした藤原道長。その娘・彰子(しょうし)の生涯を追い、怨念や陰謀渦巻く平安貴族の権力争いを描き出します。「月と日の后」(冲方丁=うぶかた・とう=、PHP)の斬新さは、どろどろした政争…

冲方さんと千年前の女性たち 〜作家つれづれ・その4

冲方丁(うぶかた・とう)さんの新刊「月と日の后」(PHP)を読んでいます。読了していないので、作品レビューを書くのは後日にするとして、今は趣の赴くままに...。 一昨日から息子と2歳の孫の男の子が帰省していて、振り回されていました。幼い瞳は、なん…

惨めなシンデレラとその後 〜「源氏物語」瀬戸内寂聴訳その6

5月の連休のころヤフオクで全10巻、1,000円で落札した瀬戸内寂聴訳「源氏物語」。併読本として年末までには読み終えようか...と、気軽に構えていました。 ところが読み始めるとそれなりに深みにはまり、いまや年内の読了をほぼあきらめています。この大作が…

時空を超えた事実 それは<物語> 〜「イヴの七人の娘たち」ブライアン・サイクス

<縄文顔>と<弥生顔>という、ちまたの分類があります。縄文=ソース顔、弥生=しょうゆ顔、と言い換えてもいいでしょう。この分類、なかなか遺伝子的に日本人の成り立ちを言い当てていると思います。 などど、知ったふうに書いたのは、遺伝子解析が切り拓…

中村真一郎 〜作家つれづれ・その3

最近、中村真一郎さん(1918〜1997年)の本を引っ張り出してきて、拾い読みの再読をしています。今はもう「それはだれ?」、という人が多いかもしれません。 小説家、仏文学者。文学評論も書き、若いころは詩人として知られ、またラジオドラマの脚本なども書…

すくすく伸びる命について

昨年秋に、剪定したツルバラの枝を1本、挿木して部屋に持ち込みました。 幸い根が出て、冬に芽を伸ばし始めました。肥料と水管理に気を配り、大きな鉢に2回の植え替え。たった1年で、ここまですくすく伸びた命の力に驚くばかりです。 昨年の冬 今年5月ごろ 2…

軽い気持ちで読むと.... 〜「貝に続く場所にて」石沢麻依

森に接した大学都市、ドイツのゲッティンゲン。留学中の<私>は人気ない駅舎の陰で、日本から訪ねてくる友人を待っています。 <私>は東日本大震災で被災した過去を持ち、ゲッティンゲンを訪ねてくる彼は、大学時代の美術史の研究仲間。沿岸部に住んでいた…

常夏の氷 秋風が吹いて栗 〜「源氏物語」瀬戸内寂聴訳その5

わたしの住む地、9月になったとたんに涼しくなり、いや、肌寒いほどでした。夜になって、外からは激しい雨音。 「もう栗が出回っているのか」と、スーパーで栗を見かけたのが8月最後の昨日のことで、帰宅して水に浸しておきました。今日の夕方から鍋でことこ…