2019-01-01から1年間の記事一覧
なぜこの本なのかなあと、自分でも思います。この人ならまず「真鶴」とか「センセイの鞄」とか。確かにそうなんだよね、なんですが。今日読んだある本について書く気が起きず、そんなときは狭いこの部屋の書架から、「口直し」(今日読んだ作家さん、ごめん…
「むらさきのスカートの女」を読んで、今村夏子さんという作家がこれまでどんな作品を書いてきたのか知りたくなりました。さっそく手にしたのが、デビュー作の「こちらあみ子」(筑摩書房、2011年初版、三島由紀夫賞&太宰治賞受賞作)です。 もし「むらさき…
掲載作家一覧 掲載作家一覧(50音順)このページはブログで取り上げた作家・本をまとめています。作品名から記事にとべます。 以下の4ジャンルに大まかに分類してあり、各ジャンルへジャンプできます。またPCなら右のメニュー「ブログ内検索」から、作家名…
コンビニという生き生きとして、無色で、いつの間にか社会に溶け込んだ現代的な空間。そのコンビニを支える有能な1部品としてのみ、社会と正常に関わることができる36歳、未婚で処女の恵子。「コンビニ人間」(村田沙耶香、文藝春秋)を読んで、実は困ってし…
優れて斬新な世界をかたちにして、わたしたちに見せてくれるのは、この20年ほど圧倒的に女性作家が多いと思います。なぜなのかと、最新の芥川賞受賞作である「むらさきのスカートの女」(今村夏子、朝日新聞出版)を読んで考えてしまいました。 むらさきのス…
メーンのPCクラッシュ。本格的な投稿、ただいま困難。はあ....
「私の消滅」(中村文則、文春文庫)を読んで感じたのは、「ああ、またおかしな所に連れていかれたな」という<気分>でした。かつては親しい感覚だったけれど、就職して働いて、稼いで、あくせくする歳月を長く重ねる向こう側に、置き忘れてきた遠い感覚。…
翻訳で海外の詩を読むのは、じつは微妙な体験です。取説のような文章はさほど問題ないにしても、文学書、特に詩ともなれば、翻訳者の感性というフィルターを通して日本語化されるからです。しかし辞書片手にフランスの詩に立ち向かっても、ネイティブに近い…
窓からキンモクセイが風に乗って香ってきます。5月下旬にこのブログを開設し、4カ月と少しになりました。当初はとりあえず3カ月一生懸命やって、その結果を見て運営方法に修正を加えようと思っていました。気づけば今日から10月になり、一度立ち止まることに…
エキセントリックで、性格や行動に歪みのある母に育てられた娘が、やがて大人になって母との関係にどう立ち向かい、新しい自分を作り出していくか。「放蕩記」(村山由佳、集英社文庫)は、ただその一点に向けて積み上げられた長編です。 母と娘であれ、父と…
今週は樹木希林さんの「一切なりゆき」がトップに返り咲き、9位の「この世を生き切る醍醐味」と2冊がベスト10入りです。特に「一切なりゆき」は年間ベストセラーに向けて突っ走っていますね。本のタイトルも上手く付けてあります。「この世を生き切る醍醐味…
短編小説の魅力とは何か、と問われたなら、わたしは「一刀彫りの鮮やかさ」と答えます。一本の彫刻刀でざっくり彫り上げる、刃先の鋭さと角度が生み出す面白さ。彫刻でいえば、手とか顔とか、胴体だけとか、一部を大胆に彫り上げて背後に広がりを獲得した作…
わたしは京都生まれではないし、住んだこともありません。仕事で、旅行者として、何度か訪れた古都。日本の歴史は嫌いでないし、好きな仏像や記憶に残る場所、シーンもかなりあります。しかし、当たり前ですが通り過ぎる者としての視点しか持ち得ません。 「…
「裸一貫! つづ井さん」が6位に初のランクインです。ジャンルでいえば「コミックエッセイ」というらしい。ツイッターで人気になって書籍化された「腐女子のつづ井さん」シリーズの新展開。腐女子の次は、裸一貫!になったようです..。作者はもちろん「つづ…
なぜ今ごろこの小説を...と言われそうですが、きっかけは9月11日が「公衆電話の日」だったからです。これに引っかけて、翌12日のある新聞に減り続ける公衆電話の記事が載っていました。1900年(明治33)に、日本で初めての公衆電話が上野駅、新橋駅に設置さ…
4位に湊かなえさんの「落日」が入ってきました。文芸書は、4週間ぶりのベスト10入りです。「おしりたんてい ラッキーキャットは だれの て に!」が相変わらずの強さでトップを譲りません。2位の「大家さんと僕 これから」も、7月末からずっと売れ続けている…
流し読みできない作品、読み始めて思わず背筋を伸ばす作品というものがあり、わたしにとって「山中静夫氏の尊厳死」(南木佳士、文春文庫)は、そんな1冊でした。南木(なぎ)さんは「ダイヤモンドダスト」で第100回芥川賞を受賞。「医学生」「阿弥陀堂だよ…
特定の作家を取り上げ、批評して1冊にすると、自ずから読者をかなり限定してしまいます。「三島由紀夫と司馬遼太郎」(松本健一、新潮選書)で言うなら、三島や司馬の読者でない人がこの本を開こうとするだろうか...と考え、しかしまた、はたと自分の考えを…
気づけば9月、旧暦なら「長月」です。今年の中秋の名月は9月13日。中秋の名月は旧暦8月15日の月を指し、これを愛でる習慣は平安時代に中国から伝わったそうです。ちなみに天文学的な満月は、翌14日になるとか。 秋の到来です。読書の秋はもちろんですが、新…
書物、雑誌、新聞と、出版物を取り巻く環境は1990年代半ば以降、劇的に変化し続けています。「紙の活字文化」という視点でまとめるなら、「衰退」という2文字があらゆる数字から浮かび上がります。衰退する世界の、日々印刷されて店頭に並ぶまでがメーンスト…
9月1日から3昼夜続く、富山市・八尾の「おわら風の盆」が始まりました。指先1本1本まで芯が通って乱れない、踊りの美しさ。胡弓と三味線が鳴らす、緩やかで切ない地方(じかた)の調べ。歌い手が息長く、高い声で歌い上げる正調おわら。 おわらの歌詞はたく…
4日かけて、昔習った日本史のおさらいをしていました。歴史に詳しい方には今さらと笑われそうですが、日本から中国の都・洛陽にまで使者が行き、後漢の光武帝からあの有名な金印「漢委奴国王」(漢の委わの奴なの国王)を授かったのは、西暦57年でした。これ…
50歳を過ぎて「雪国」(川端康成、新潮文庫)を再読したとき、男と女を描いてこれほどまでに艶(なまめか)しい小説だったのかと、唖然としました。つんと底冷えする雪国だからよけい、一途に織り上げられていく「女」が切ないのですね。 逗留する越後湯沢の…
強いですね、おしりたんていシリーズ。新刊の「ラッキーキャットは だれの て に!」が出れば、たちまちベストセラーのトップ。今回も「ププッ」っと、事件を解決するのでしょう。幼児向けの、読み聞かせに適したシリーズなので、おならの音が「おしりたんて…
書店の新刊本や文庫本コーナーをぶらぶらして、何冊か手に取り、食指は動くけれど買う決意のつかないことがよくあります。「あれ、まだ読み終わってないし」と、机の上の2、3冊を思い出したりして。「でも、どうせいつか買うなら、今買っておこうか」と思い…
落ちないですね「大家さんと僕 これから」 。4週連続のトップです。9位の「劇場版 ONE PIECE STAMPEDE」は初のベスト10入り。2位「天気の子」の新海誠さんは、あの大ヒットアニメ映画『君の名は。』を制作した監督です。映画は新海さん自ら…
今週のベストセラー総合9位(2019.8.14集計)に入っていて、読んでみたのが「上級国民/下級国民」(橘玲=たちばな・あきら=、小学館新書)です。事前知識で興味をひかれたのですが、ちょっと参ったのが刺激的な言葉を連ねたカバー。「何だよこれ..」と、本を…
中国地方の静かな山あいにある、寂れた温泉町。流れる一本の川に、人しか通れない石の橋が架かっています。町の子どもたちはみんな、その橋を渡って川向こうの小学校に通い、昔、花嫁はその橋を越えて町へ嫁いできました。橋は、過酷で、ときに華やかに見え…
トップの「大家さんと僕 これから」以下、4位までの順位に変動はありません。9位 に橘玲(たちばな・あきら)さんの「上級国民/下級国民」が初のランクインです。 「上級国民/下級国民」は、分断が進む日本社会を分析した小学館新書です。バブルのころ「1…
「夕暮まで」(吉行淳之介、新潮社)を再読すると、いまの時代、男と女のお伽噺のようにさえ思えます。1978年初版。野間文芸賞を受賞し、当時は中年男性と若い愛人を指す「夕暮れ族」という流行語まで生まれました。男女の1年半の関係を、7編の連作で構成し…