ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

2019-09-01から1ヶ月間の記事一覧

愛憎、矛盾を孕みながら 母と娘 〜「放蕩記」村山由佳

エキセントリックで、性格や行動に歪みのある母に育てられた娘が、やがて大人になって母との関係にどう立ち向かい、新しい自分を作り出していくか。「放蕩記」(村山由佳、集英社文庫)は、ただその一点に向けて積み上げられた長編です。 母と娘であれ、父と…

今夜は手抜きレシピで美味しく 〜2019.9.25 週間ランキング

今週は樹木希林さんの「一切なりゆき」がトップに返り咲き、9位の「この世を生き切る醍醐味」と2冊がベスト10入りです。特に「一切なりゆき」は年間ベストセラーに向けて突っ走っていますね。本のタイトルも上手く付けてあります。「この世を生き切る醍醐味…

十人十色の個性 短編の楽しみ 〜「短編工場」 浅田次郎他12人

短編小説の魅力とは何か、と問われたなら、わたしは「一刀彫りの鮮やかさ」と答えます。一本の彫刻刀でざっくり彫り上げる、刃先の鋭さと角度が生み出す面白さ。彫刻でいえば、手とか顔とか、胴体だけとか、一部を大胆に彫り上げて背後に広がりを獲得した作…

3姉妹が織りなす京都 〜「手のひらの京」綿矢りさ

わたしは京都生まれではないし、住んだこともありません。仕事で、旅行者として、何度か訪れた古都。日本の歴史は嫌いでないし、好きな仏像や記憶に残る場所、シーンもかなりあります。しかし、当たり前ですが通り過ぎる者としての視点しか持ち得ません。 「…

腐女子の次は、裸一貫! 〜2019.9.18 週間ランキング

「裸一貫! つづ井さん」が6位に初のランクインです。ジャンルでいえば「コミックエッセイ」というらしい。ツイッターで人気になって書籍化された「腐女子のつづ井さん」シリーズの新展開。腐女子の次は、裸一貫!になったようです..。作者はもちろん「つづ…

一つの声が届くまでの時間について 〜「ノルウェイの森」村上春樹

なぜ今ごろこの小説を...と言われそうですが、きっかけは9月11日が「公衆電話の日」だったからです。これに引っかけて、翌12日のある新聞に減り続ける公衆電話の記事が載っていました。1900年(明治33)に、日本で初めての公衆電話が上野駅、新橋駅に設置さ…

湊かなえさん「落日」がランクイン 〜2019.9.10 週間ランキング

4位に湊かなえさんの「落日」が入ってきました。文芸書は、4週間ぶりのベスト10入りです。「おしりたんてい ラッキーキャットは だれの て に!」が相変わらずの強さでトップを譲りません。2位の「大家さんと僕 これから」も、7月末からずっと売れ続けている…

人はどこにかえるのか 〜「山中静夫氏の尊厳死」南木佳士

流し読みできない作品、読み始めて思わず背筋を伸ばす作品というものがあり、わたしにとって「山中静夫氏の尊厳死」(南木佳士、文春文庫)は、そんな1冊でした。南木(なぎ)さんは「ダイヤモンドダスト」で第100回芥川賞を受賞。「医学生」「阿弥陀堂だよ…

ロマンとリアルの対峙 〜「三島由紀夫と司馬遼太郎」松本健一

特定の作家を取り上げ、批評して1冊にすると、自ずから読者をかなり限定してしまいます。「三島由紀夫と司馬遼太郎」(松本健一、新潮選書)で言うなら、三島や司馬の読者でない人がこの本を開こうとするだろうか...と考え、しかしまた、はたと自分の考えを…

9月、読書の秋到来....なのですが 〜2019.9.3 週間ランキング

気づけば9月、旧暦なら「長月」です。今年の中秋の名月は9月13日。中秋の名月は旧暦8月15日の月を指し、これを愛でる習慣は平安時代に中国から伝わったそうです。ちなみに天文学的な満月は、翌14日になるとか。 秋の到来です。読書の秋はもちろんですが、新…

本を愛した5人の男 〜「古本屋奇人伝」青木正美

書物、雑誌、新聞と、出版物を取り巻く環境は1990年代半ば以降、劇的に変化し続けています。「紙の活字文化」という視点でまとめるなら、「衰退」という2文字があらゆる数字から浮かび上がります。衰退する世界の、日々印刷されて店頭に並ぶまでがメーンスト…

年に1度の逢瀬 幻の3日間 〜「風の盆恋歌」高橋治

9月1日から3昼夜続く、富山市・八尾の「おわら風の盆」が始まりました。指先1本1本まで芯が通って乱れない、踊りの美しさ。胡弓と三味線が鳴らす、緩やかで切ない地方(じかた)の調べ。歌い手が息長く、高い声で歌い上げる正調おわら。 おわらの歌詞はたく…