ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

正月に、飲んで包丁を研ぐ

面白い小説は、例外なく脇役が魅力的です。悪者であれ善人であれ、主役を生かすのは脇役ですから、彼らがくっきり描かれているほど、その対比で主役が際立ちます。 題名を忘れてしまったのですが、北方謙三さんの時代小説にちょい役で出てくる研師がいます。…

爽やかな復讐劇 タゲは日本国 〜「ワイルド・ソウル」垣根涼介

読みながら心ざわめき、次の展開が待ち遠しくて、ページをめくる手が止まらなくなる。優れた小説が持つスピード感であり、物語の「力」とも言えます。しかし、どれだけ読者がわくわくしようと、実はもっとわくわくした人物が過去に一人だけいて、それは作者…

素描とメイキングの画廊 〜くーのブログ個展

連日の仕事の息抜きに、ふと、一昨年から描いた素描を紹介させていただこうかと思いつきました。ささやかな<ブログ上の個展>。出品者としては会場費も額装費も必要なし!。うん、そこに関してははいいかも。 絵は素人のお遊びゆえ、未熟な点はご容赦くださ…

作り手たちのカオスな日常 〜「最後の秘境 東京藝大」二宮敦人

おそらく10分に1回くらいは、にんまり頷いていました。30分に1回くらいは、笑い声をあげていたかもしれません。 たまたま、知人と時間待ちをしていたとき。文庫本を開くわたしの不審な笑いを、知人に聞きとがめられました。 「どうしたんだ?」 いや、それが…

ふと目にした北鎌倉、祈りの光景

雨の鎌倉を訪ねたのは1年前でした。 名古屋、東京にそれぞれ用事があって高速バス、新幹線を使って回りました。用事といっても仕事ではなかったので、余裕を持った3泊4日。2泊した東京では美術館巡りを1日、もう1日は小雨の中、30数年ぶりに鎌倉へ。 北鎌倉…

柿を齧って思いをはせる 〜柿の文化史

80歳をとうに越えた農家の叔父が、軽トラを運転して柿を届けてくれました。これから雪が降ると、白い景色の中に鮮やかに色映えるのは柿です。わたしにとっては冬の初めの見慣れた景色でありながら、どこか懐かしい点景。 江戸時代から、越中の農民は飢饉に備…

その女、魅力量りがたし 〜「和泉式部日記」

<女>は世を儚み、日々打ちひしがれていました。愛し尽くした男が前年、若くして病死したからです。 亡くなった男、実は妻帯者でした。おまけに将来は国のトップになったかもしれない皇族。一方で<女>の方にも、役人の夫と幼い娘がいました。許されぬ2人…