ファンタジーであり、ミステリーであり、そして、読書の時間を理屈抜きに楽しませてくれる小説です。「かがみの孤城」(辻村深月、ポプラ社)は、2018年の本屋大賞受賞作。 中学に進学したばかりの<こころ>は、名前の通り繊細な心を持つ、どこにでもいる女…
最初に告白しておけば、25年前にひっそり書店に並んでいたこの本、わたしは1ページ目から最後までを、通読したことはありません。 買った当初は目次で全体構成を眺め(庭に関するエッセイ、詩、書簡のような断片、掌編小説、水彩画などが集められている)、…
昨日と打って変わって、肌寒い春の1日。 スーパーで買ってあった約100円ハンバーガーをチンして、コーヒーで朝食。昨夜書き上げたコラムを読み直し、少し手を入れて送信しました。ほっとする一方で「あとはどうにでもなれ」の、開き直りもあります。仕事の…
「JR上野駅公園口」(柳美里=ゆう・みり=、河出文庫)は、2020年に全米図書賞を受賞したことで、日本でも多くの人が手に取った1冊です。わたしもその一人で、柳美里さんの作品は初読でした。 いい作品が必ずしも売れると限らない以上、どんな経緯を経るに…
明治に生まれ育ち、大正から戦前にかけて青春期、壮年時代を過ごした一人の詩人の自伝に、なぜ妙な懐かしさを感じるのか。自分が生まれるずっと前の時代に、郷愁のような心の揺らぎを覚える不思議について、わたしはうまく説明できません。 詩人・金子光晴は…
二篇のエッセイが、妙に響きあって、心に残りました。どちらも、新聞に掲載された短い原稿です。 まず2020年5月25日、朝日新聞に掲載された青来有一さん(作家)の「暖簾は語る」。 年に数回は行くという、長崎県の温泉地の居酒屋の話です。 八十代の元気な…
又吉直樹さんの芥川賞受賞作「火花」には、次も読んでみようかと思わせる何かがありました。そして手に取ったのが「劇場」(新潮社)です。 帯のキャッチには「切なくも胸に迫る恋愛小説」。なるほど、ストレートにそのままの作品です。主人公の<僕>は、ア…