ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

彼は立ち止まらない 〜「久遠」など刑事・鳴沢了シリーズ 堂場瞬一

最近<リーダビリティ readability>という言葉を知りました。「先へ先へと読ませる力」という意味でしょうか。あの作家はリーダビリティが高い、といった使い方をするようです。 いい小説の条件を考えるなら、結局は「面白いか否か」というシンプルな出発点…

100歳を超えて、なお詠み続け 〜「歌集 銀の糸道」宮﨑浪子

思ひ出のひとつひとつが年ごとに光増しゆく齢となりぬ この短歌を詠んだとき、作者100歳。 雪のせてピンクに笑まへる梅一輪 この俳句は103歳の詠。 作者の宮﨑浪子さんは今年、2020年10月で104歳を迎えました。誕生日に合わせて刊行されたのが「歌集 銀の糸…

魔王・信長か 繊細な天才・光秀か 〜「国盗り物語」司馬遼太郎

小学生の男の子は、わりと様々な<○○少年>時代を過ごすものです。わたしに関して言えば、夏休みの<昆虫採集少年>だったり、放課後の<野球少年>だったり。少し珍しいと思うのは、一時期<発掘少年>だったことでしょうか。 自転車で10数分で行ける丘陵地…

絵=メイキング 本=カミング・スーン

この10日ほど、司馬遼太郎さんの「国盗り物語」をこつこつ読み進んでいるのですが、なにせ文庫で全4冊の長編で、なかなか読了できません。仕事というか、細々とした在宅ワークがちょっと山場に差し掛かっているせいもあります。 近日中には読み終わりそうな…

空の高い季節に 紙の本と電子の本

先日まで昼は半袖でも過ごせましたが、もう長袖の時季です。秋は太陽の位置が低いので、窓から入る日射しが部屋の奥まで伸び、外に出れば目に映る自然がより輝いています。日の光が低いから地上がきらきらし、逆に青空は高い。 「空の高い国」。スペインとい…

なぜ信長は光秀に討たれたか 〜「信長の原理」垣根涼介

少年は蟻を見ていた。 暑い夏の午後、しばしば飽くこともなく足元の蟻の行列を見続けていた。 周囲から煙たがられ、母からも疎まれるこの少年は、吉法師(きっぽうし・織田信長の幼名)。「信長の原理」(垣根涼介、角川文庫)は、蟻を見つめるシーンから始…

昔の自分に遭遇した夜

自分が若いころ、詩を書いていたという意識は、ありません。 とぎれとぎれながら、数年の間に何編かの<詩のようなもの>を書いたのは、20代の後半でした。散文詩も含め、せいぜい10篇くらいです。 既に就職していて、文章を書くことが仕事になっていました…