ことばを食する

私的な読書覚え書き。お薦めできると思った本を取り上げます

静かに読み浸る 修羅 〜「あちらにいる鬼」井上荒野

本猿さんのブログ「書に耽る猿たち」に「しとしとと雨の降る午後に、雨音だけが響く中、静かに読み浸っていたいような作品」と紹介されているのを読み、無性に読みたくなった小説です。そして「あちらにいる鬼」(井上荒野、朝日新聞出版)は、まさにそんな…

<断捨離>を試みた<真逆>の結果について

<断捨離>は、比較的新しい言葉ですが、あらゆる年代の人にすっかり定着した感があります。 <真逆=まぎゃく=>という新語も、20年ほど前から若い世代を中心に使われ続けているようです。実はこの言いよう、わたしのような「気持ちだけ若い」人間には、い…

巨匠たちのつぶやき、そして肉声 〜「世界素描体系」I〜Ⅳ、別巻1、2

素描、つまりデッサン(フランス語)、ドローイング(英語)の魅力は何かと自問すれば、「画家の素顔に出会えること」だと思います。油彩の完成作品は、画面の四隅にまで画家の神経が行き届き、満を持して発表する<華やかな舞台>のようなもの。 対して素描…

文化を担った人々の熱い舞台裏 〜「神楽坂ホン書き旅館」黒川鍾信

ひと昔前まで、脚本家や小説家はどんなところで、どんなふうにして原稿を書いたのでしょうか。「神楽坂ホン書き旅館」(黒川鍾信、NHK出版)を再読して、不覚にもところどころ涙しそうになりました。昭和の物書きたちと、彼らを支えた無名の人びとの息遣いが…

朝に人を殺し 昼に子を助ける 〜「異端者の快楽」見城徹

幻冬舎代表取締役社長、そしてカリスマ編集者である見城徹さんが、対談を通して自らを語っているのが「異端者の快楽」(幻冬舎文庫)です。見城徹という一人の編集者・人間がくっきり浮かび上がるとともに、対談相手の中上健次、石原慎太郎、さだまさしさん…

ときに劇薬 使用法にご注意を 〜「逃亡者」中村文則

仕事が首尾よく終わって、仲間と握手。仲間は魅力的な女性で、顔には出さないけれど本当は強く惹かれています。ごく短い時間重なり合った、彼女の冷たい皮膚の感触、薄い掌と指の儚げな、しかし芯の通った強さと体温に触れ、彼女という<特別な存在>が掌か…

レース編みと、一人称小説について

「今週は絵よりも読書をメーンにしよう!」と思っていたのですが、いやはや、やはりスケッチブックを開いて鉛筆でコツコツやる時間が多くなっています。鉛筆でレース編みを描いてみよう、などと考えたのが(いま思えば大それた考え!)そもそものまちがいで…